PROJECT
STORY

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脱炭素化を加速させるAIテクノロジー

化学プラントの課題を解決
職人の「匠の技」を再現するAI開発

OUTLINE

多くの化学プラントでは、化学製品の生産過程における温度や圧力、流量などを多数のセンサーにより検知、制御しています。内部の反応が複雑な一部の工程は、システムによる自動制御ができず、人によるオペレーションが不可欠であることが現状。しかし、運転員の確保や、高度なスキルの習得が難しくオペレーション品質にばらつきが出ることが課題となっています。

NTT Comは、プラント制御において国内ナンバーワンシェアの横河ソリューションサービス株式会社(以下、横河ソリューションサービス)と連携し、運転員のオペレーションを模倣するAIの共同開発に乗り出しました。 より少人数の運転員で安定的な化学プラント運転の実現を目指し続けるプロジェクトメンバーが、当時を振り返ります。

PROJECT MEMBER

私たちが紹介します

  • イノベーションセンター テクノロジー部門
    ビジネスソリューション本部 事業推進部
    スマートファクトリー推進室兼務

    Ito Koji

    伊藤 浩二

  • ビジネスソリューション本部 事業推進部
    スマートファクトリー推進室

    Matsuda Akeno

    松田 明野

  • ビジネスソリューション本部 事業推進部
    スマートファクトリー推進室

    Fujisawa Hiroki

    藤澤 裕記

  • イノベーションセンター テクノロジー部門

    Kiritoshi Keisuke

    切通 恵介

  • イノベーションセンター テクノロジー部門

    Kimura Daichi

    木村 大地

ROAD MAP

  • Phase 01 体制構築

    化学プラントのAI開発に向け、化学プラントに精通する横河ソリューションサービス、AI技術を提供するNTT Comのチーム体制を構築。

  • Phase 02 戦略立案

    複雑な化学プラントの工場をAIによって模倣するのではなく、工場を制御している人そのものをAI化する。

  • Phase 03 事業検証

    化学プラントの管理をAIによって自動化するプロジェクトが、ビジネスとして成立するかどうかを検証。

  • Phase 04 技術検証

    人のAI化というアイデアが技術的に実現可能かどうか、本格的な開発をはじめる前にNTT Comの特許技術によって効率的な検証を実施。

  • Phase 05 実現へ向けた結束

    NTT Comの多様なチーム、横河ソリューションサービスの多様なメンバーが一つの目標のもとで結束することで実現の道筋ができる。

Phase 01 体制構築

化学プラントの複雑に変化するデータ

スマートファクトリー AIチームで技術面のプロジェクトマネージャーを務める伊藤は、「お客さまとNTT Comが事業パートナーとして連携し、その先にいるエンドユーザーの課題解決につながるサービスを開発するプロジェクトです」と、今回のプロジェクトの目的を語ります。
AIの開発にあたっては、現場で活用されているデータやそれを扱う知見がベースになりますが、NTT Comの中には化学プラントを運用する組織は存在せず、必要となる現場の情報を持っていませんでした。そこで、化学プラントの運用管理に精通する横河ソリューションサービスが現場のノウハウを提供し、NTT ComはAIに関するテクノロジーを提供する形で、化学プラントの制御を効率化するAIを開発するプロジェクトがはじまりました。
化学プラントのオペレーション効率化にAIを活用するメリットについて木村はこう語ります。「化学プラントは装置の内部に多様なセンサーが付いています。それぞれのセンサーがとても複雑な挙動を示し、時系列データの動きも複雑で、特徴を見出すことが困難です。化学反応炉の中の反応も把握しづらく、非線形なものであると考えられます。そのため、単純な手法で状態を検知して制御するのではなく、より複雑な現象を扱えるAIを使う方が効果的と判断しました」。

Phase 02 戦略立案

工場ではなくそれを制御している「人」をモデル化

日本の化学プラントは、現在9割以上の工程は自動化されていますが、自動で運転できない工程が一部で残っています。装置の内部が非常に複雑で、今までの制御手法でもコントロールできない部分がありますが、何故か人間の手にかかると制御できてしまう。長年の経験をもつ「匠」による熟練の技術と勘によって問題なく運転できてしまうのです。
化学プラントの運転制御におけるラストフロンティアとも言える最難関パートのモデル化に、木村は長期にわたって挑んできました。「当初は化学プラントの動き自体をAIでモデル化しようと取り組んでいましたが、前述のように装置の中の反応が非常に複雑怪奇でモデル化が難しく、行き詰っていました。しかし、その装置を操って複雑怪奇な制御をやってのけている人がいるのも事実。だったら、その『人をモデル化』しようという方向に視点を変えました。
たとえば、温度の変化を見て何を判断し、投入する素材の量をどう変えるのか。どのデータを見て、何をどう操作をしたのか、という「匠の技」から徹底的に学ぶことで、「残された1割」をモデル化する挑戦へと舵を切りました」。

Phase 03 事業検証

AI開発をビジネスとして成立させる

技術的なアイデアのターニングポイントが訪れた一方、AI開発をビジネスとして実現する事業化の観点でも大きな戦略変更があったと、ビジネス面のプロジェクトマネージャーを務める藤澤は当時を振り返ります。「2020年からは、本格的な開発に取りかかる前に、そもそもお客さまが期待する価値を生み出せるプロジェクトであるのかどうかを評価(アセスメント)する手法を取り入れました。これまでも、開発に取りかかる前には技術的なアイデアの実現可能性を実証するPoC(Proof of Concept)を実施してきましたが、それをクリアした後になかなかサービス化、ビジネス化に発展できないことが課題となっていました。そこで今回はPoCの前に、ビジネスとして成立するかという一番大事な部分を実証するCoB(Creation of Business model)というプロセスを実施したのです。AIを使って課題を解決することが、本当にコスト削減につながるのか、収益向上につながるのか、ビジネスとして展開できる規模なのかを検証し、それがクリアできた上でPoCを実施するという手順に変えたことで、事業化への道筋が開けてきました」。

Phase 04 技術検証

NTT Com独自のツールで検証を高速化

事業としての道筋が見え次のステップとなるのが、技術的なアイデアの実現可能性の検証『PoC』です。
横河ソリューションサービスによる現場のデータと知見をもとにAIモデルを組み立て、数値をはめ込んで化学プラントの制御オペレーションをデータ上で再現します。結果的に出てきた数値が現場の感覚値と合っているかどうかを検証し「AIで匠の技を再現できる」という確証が横河ソリューションサービスとの間で得られなければ、本格的な開発へと進むことはできません。その試行錯誤のプロセスにおいてデータ分析のフローを構築する際、一般的には毎回コーディングが必要であったが、NTT Comの特許技術を詰めこんだ「Node-AI」が、この作業を高速化するツールとなりました。開発を担当した切通はこう語ります。
「Node-AIのコンセプトはコーディングをせずにデータ分析ができることです。AIによる予測の精度を高めるプロセスにおいて、AIモデルがどのデータを重要視して予測しているかを検証していくのですが、コーディングすることなくフローを構築できるNodo-AIを活用することで、検証プロセスが飛躍的に効率化できました。また、このNode-AIはグラフィカルインターフェイスで表示されるため、分析したデータを全て「見える化」して、スピーディにお客さまと共有できます。打ち合わせ資料の作成や打ち合わせ時間そのものを削減することで、プロジェクトの加速に一役買ったことは間違いありません」。
NTT Comでは、このNode-AIをはじめとする特許技術、学会で発表するレベルの最新技術の研究開発に強みがあることはもちろん、それが研究からビジネスの現場へとすぐに共有され、積極的に実装する体制があることが大きな強みとなっています。

Phase 05 実現へ向けた結束

結束したメンバーが一体となってサービス開始へ

プロジェクトは現在、サービス提供の実現を見据えてさらなる検証を進めるべく、横河ソリューションサービスと一体となって大量のデータ収集を続けています。長年にわたるプロジェクトが一歩ずつ着実に実現へと進んでいる理由が「我々とお客さまが目標を共有できたこと」にあると伊藤は言います。
「プロジェクトには、AIに関する最新の研究を推進するアルゴリズム開発担当、それを現場に速やかに届けるため、SCRUMによる内製開発を推進するNode-AI開発担当、届けられたAI技術を活用したお客さまとの協業ビジネスを開発する スマートファクトリー推進室、そしてお客さまという多様なメンバーが参加しています。すべてのメンバーが化学プラントの課題解決という目標に向けて一つのチームになれたときに、事業化を確信することができました」。
さらに、横河ソリューションサービスも含めたプロジェクトチームの一体感を示すエピソードとして、スマートファクトリー推進室AIチームの全体戦略を担う松田はこう語ります。
「お客さまとの会話は、突き詰めていくと、化学業界を変えるとか、日本の未来についての話まで発展することが少なくありません。もともと物づくりが強かった日本にとって、IoT(※)が進化し、AIの実用化がはじまった今こそ、チャンスのとき。そんな腹の底に抱えた熱い想いまでお客さまと共有できていることは、チームとしての大きな強みだと感じています」。
2021年4月、工場のオペレーションルームにAIモデルを持ち込んで、実用的な実験をスタートし、サービス提供も開始しました。加速度を増すプロジェクトですが、その先にあるのは化学プラントの効率化、そして少子高齢化による働き手不足の解消だけにとどまりません。
AIの社会実装の先進的な事例となることで、日本の製造業をリードしていく。スマートファクトリー推進室こそ、未来のAI開発の現場と言えるでしょう。
※ IoT(アイ・オー・ティー)…「Internet of Things」の略。モノがインターネット経由で通信することを指す。

※掲載内容は2021年2月時点のものになります
※十分な感染対策を行い、撮影時のみマスクを外しています

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